乙姫.迷宮Smile 8話、9話~あん 作~



8話
浦島は海を眺めていた
寄せる波は自分がこの地上で過ごしていた頃と変わらず穏やかだった。

この辺りもところどころ随分と変わった、、、知る人もやはり、いるはずもなかった、、、しかし残っていることを願い訪ねた血筋の家は途絶えてしまっていた。
ある程度覚悟はしていたつもでいたが、、、

まさか、あのような悲惨な末路を迎えていたとは
妻も子も不憫な死なせ方をした、、、
自分が死なせたようなものだ、、、なんて事を自分はしてしまったのか、、、

浦島は頭をかきむしった
、、、

押し寄せる波の音が
「あなた、あなた、こちらへいらして、、、わたしのそばにお出でください、、、」と、この海に身を投げた妻の囁きに聞こえる

「そなた!よくも、今頃、戻りおって!?何をしていたのだ!!この痴れ者め!」と
不意に背後から罵声を浴びせられ、振り向くと
そこには刀で斬られ頭から血を流した父親の姿があった

浦島「ち、父上!」

恐ろしさに冷や汗が背中を幾度もつたう、、、

すると今度は優しい腕に抱き止められた

「あぁ、、、会いたかった生きていてくれたのですね、、、お前に会いたくて会いたくて、、、」
泣きながら自分にすがり付くのは母親の亡霊であった。

浦島「母上、、、」

浦島の瞳から止めどなく
懺悔の涙が溢れて落ちた、、、


わたしは、、、
あの日、、、

浦島は涙の渦の中で
ウミガメに恩返しを申し出られた日の事を思い返していた、、、。

その娘は自分がかつて浜で子どもらに捕まっているところを助けてやったウミガメの化身だと言った。

にわかに信じがたい話であったが娘が疑いの目を向けるわたしに真の姿を見せた、、、
変化を解いてウミガメとしての姿を見せたのだ

不思議なこともあるものだ、、、
ウミガメは、わたしに
竜宮へ来てほしいと懇願してきた
そこでは竜宮の主、乙姫がわたしを待っていてウミガメを助けた礼がしたいと言っているというのだ、、、

はて、、、どうしたものか、、、わたしは、この地を納める領主の嫡男である、、、

父を助けて様々な職務にもあたっている
妻子もいる、、、
決して軽々しい行動をとってはならぬ、、、
幼き頃からの父母からの
言わしめだ、、、

「お前は嫡男なのだ、わきまえて生きねばならぬ」

「お前がここを守るのです。お前にはその責任があるのです」

こびりついた父母の声が胸の奥から沸き上がってくる。

家のために、、、わたしは育てられ、そして生きている。

父母の言うことに従い勉学、鍛練に励み父母の決めた嫁を娶った。

わたしの身の上にある重責は、、、
軽々しい行動は、、、
わたしは、、、あぁ、、、
そうだ、もっと自由になりたかった。
あの時、、、こんな不思議な夢のような出来事がまことにあるものなのかと、どこか半信半疑だったが、、、
今まで、、、何一つ自由にしたいことなど
なかった己に起きた、この不思議な出来事が心の枷を打ち砕いたような気になったのだ、、、
このまま、ずっと、、、縛られたままで良いのか、、、心の奥底からわき上がる思いに抗えなかった、、、

そして、、、
気がつくとウミガメの誘いを受けて竜宮へ来ていた。

そして、、、
出会ってしまった
乙姫に、、、
彼女を知り離れられなくなってしまったのだ
地上の事を意識の片隅に押し込め恋の虜となっていた、、、

つづく



9話
乙姫は今か今か、、、と
ウミガメの帰りを待ちわびていた、、、

正確に言えばウミガメが連れてくるであろう若者、浦島に会えるのが待ち遠しい

乙姫は地上にでることを禁じられている
生まれた時からずっと
この竜宮意外には出たことがなかった

外の世界がどんなところで、どんな生き物がいるのか、、、姿は?声は?
どんな事を考えながら暮らしているのだろう、、、

全てが謎だらけ、、、
そして、知りたくて仕方なかった

ウミガメの娘が幼い頃からの乙姫の遊び相手だった。

乙姫はウミガメに頼んで自由に外の世界を見ることができない自分の代わりに時々、あちらこちらを見て来てもらっては
土産話に耳を傾けることだけが唯一の楽しみだった。


先日、聞いた、ウミガメを助けた浦島という若者の話し、、、

ウミガメから若者の凛々しい風貌を聞き
胸が熱くなった、、、
これをときめく、、、というのだろうか、、、

少しだけでいいから
その地上の若者と話がしてみたい!


乙姫「ウミガメを助けた地上人、浦島とやらに直々、礼が言いたい」

乙姫は、はじめてワガママを言ってみたのだ

もちろん、お付きのもの皆から大反対された、、、

鯛などは、怒って真っ赤になりながら言った
「成りません!姫様!なんてことを!地上人などという得体の知れない生き物、わたくし達の仲間を捉えて食す輩!!そんな野蛮な生き物に竜宮でお会いになるなんて!」

はたまた、ヒラメはヒラリヒラリと身の回りを忙しく泳ぎ回りながらこう言った

「姫は地上の若者に会ってどうなさるのですか?ほんとにただ礼が申したいのですか?」

ヒラメ、、、なかなかに
聡いわね、、、さすがだわ

乙姫「礼を申して、しばし持て成す。わたしは地上の者がどのような姿をし考えを持ち暮らしているのか知りたい。それは、この海を納めるにあたり役にたつと思うからだ。野蛮な生き物、、、それは何も地上人だからと言うわけでもあるまい、、、野蛮なら海中にもおる。ウミガメを助けた心の持ち主なら悪い輩ではあるまい、、、なぁ、ヒラメ、そう思わぬか?」

ヒラメはヒラリヒラリとしながら、、、

しばらく考えを巡らせていたが、、、
ヒラメ「確かに、地上人だから野蛮とは単には申せませんでしょうね、、、そして、この海を納めるお方として地上について知っておきたいと姫がお考えくださることは、まことに聡きお考えかと、、、姫もいつまでも子どもじゃない、、、ご成長あそばされている!と、わたくしは大変嬉しく思います」

鯛「、、、しかし、しかし、しかしーー!わたくしは納得致しかねます!外界から人を招いたことなど、わたしが知る限り今までに一度もありませんわ!地上人をどうやって海中の竜宮へ?あの者たちは水中では普通に生きられません、あっさり死なせてしまったりしたら、ややこしいことになりませんか?」

、、、そうか、、、地上人と私たち竜宮人とでは身体の作りが違うのだ、、、

私たち竜宮人は術を使い
地上人そのままに身体を変化させる能力を持っている。だから、地上に出て生活することには何ら支障はない。

でも地上人にはそんなふうに術を使う能力はないらしい、、、
しかも、身体もそれほど丈夫ではないし寿命もかなり短いと聞いた、、、
地上とは儚い場所だ、、、

しかし、ウミガメが言っていた、脆く儚い身だからこそ、そして、短い寿命だからこそ、その一生を懸命に生きて輝くのかも知れないと、、、

地上人の輝きとはいかなる物であろうか、、、
見てみたい、、、

乙姫「か弱き地上人が竜宮で過ごせる良い手立てはないものか?ヒラメ、方法を探ってくれ。鯛、、、良いことに気づかせてくれたな、やはり、そちは良い乳母だ」

鯛は乙姫に誉められて
ポワンっと益々赤くなった。

そして、いい気分でこう言った

鯛「そうでございますね、、、地上人はか弱き生き物。こちらに連れて来たとて、ここがどうなるものでもありませんね、、、」

と、なんとかかんとか
お付きの者たちを言いくるめて今に至る、、、

地上について色々と知識を得たいというのも、あながち嘘ではないのだ、、、

地上の若者への興味はんぶん、海を納める者として様々な知識を有したいという気持ちはんぶん、、、

乙姫はヒラメに地上人を海中で、もてなせる方法についての調べを急がせた。

つづく

次回は年末に10話、11話をお届けしまーす🎵